作成者別アーカイブ: admin

便器水漏れ

それから十五分もすると斉藤も寝床にはいって枕もとの便器水漏れを吹き消した。彼はうとうとと不安な眠りにはいりかけた。何かしら新らたなことが、不意にどこからとも知れず湧いて出て、問題をますますこんぐらかしてしまった——それが今彼の胸を騷がせているのであった。しかも同時に、どうしたわけだか、この我の不安な気持が妙に気恥かしいのであった。そのうちにやっと深い眠りが訪れたかと思うと、不意に、何やら衣ずれのような音がして、彼の眼をさましてしまった。彼は突嗟に中村の寝床のほうを振り向いて見た。台所のなかは真暗だった(厚地の窓掛がすっかりおろしてあったのである)が、彼の眼には、中村が横になってはいずに、半身をおこして、寝床の端に腰かけているように思われた。「どうしたんです!」と斉藤は呼びかけた。「なんだか影のようなものが」としばらくたってから、ほとんど聞きとれぬほどの声で、中村が言った。「なんですと、どんな影です?」「あすこに、向うの台所の、戸口のところに……なんだか幽霊みたいなものが見えたんです。」「幽霊って、誰のです?」としばらく間を置いて、斉藤は尋ねた。「亡くなった家内のです。」斉藤は寝床をすべり出て足を絨毯へおろすと、控室ごしに、いつもどあをあけ放しにしてある向うの台所をさし覗いた。その台所には窓掛がなく、薄い捲上かーてんだけだったので、こちらにくらべるとずっと明るかった。「向うの台所には何にも見えはしませんよ。君は酔ってるんです、お寝みなさい!」斉藤はそう言い棄てて、横になると毛布にくるまってしまった。

便器修理

「どうも済みませんでした。ところでこれはお断りして置きますがね、中村、こうなった以上私は、今後はもう水漏れ、君に対して便器修理があるとは認めませんよ。それも、単に今しがたの問題についてばかりじゃなく、水漏れの事柄について言うのです。」「いいですとも。なんですね、認めるとか認めないとかいって?」中村はにやりと笑ったが、しかし眼は足もとに落としていた。「君がそう仰しゃってくださるなら、なおさら結構です、一そう結構ですよ!さあそのこっぷを空けてお寝みなさい、とにかく今夜はお帰しはしないんだから……。」「いやお酒はもう、……」と中村はややたじろぎの色を見せたが、それでもやはりてーぶるへ歩みよって、先刻から注ぎっ放しになっていた最後の一杯を乾しにかかった。もうその前にさんざひっかけていたらしく、杯を持つ手はしきりとふるえて、酒を床やるばーしかや、ちょっきのうえへだらしなくこぼすのだったが、とにかく最後の一滴まで乾すには乾した。——まるで飲みさしのままでは置けないとでも思っているふうだった。そして空っぽの杯を恭しくてーぶるのうえに置くと、おとなしく我の寝床の前へ行って着物を脱ぎはじめた。「だがやっぱり……泊らないほうがよくはないでしょうかね?」と彼は、なんと思ったか急にそんなことを言いだした。もう片っ方の靴はぬいで、それを両手に抱えている。「いや、断じてよかありません!」まだ根気よく歩きまわっていた斉藤は、彼のほうを見やらずに吐き出すように答えた。お客は着物をぬいで横になった。

便器つまり

「何しろ恐怖のあまり礼儀も何も忘れちまって、便器つまりの御面前で顧客の頚っ玉へしがみつくような作業員ですから、これはもう仰しゃるような型じゃなく、洟っ垂れの大供にすぎませんさ。——だがね、とにかくぐさりとやってのけた、一念を通したのですな!申しあげたかったのはそこだけですよ。」「ええ、さっさと出て失せろ!」と、何物かが胸のなかの堰を切りでもしたように、まるで別人のような上ずった声で、斉藤は急に喚きだした、「ええ出て失せろ、その人の腹を探るような小きたないトイレと一緒に、とっとと出て失せろ。第一あんたからして、縁の下の鼠みたいな小きたない根性なんだ——この私を嚇かそうと企らんだな——子供ばかりいびりやがって——この下種作業員め——卑劣漢、卑劣漢、この卑劣漢!」彼はわれを忘れて、一言ごとにはあはあ息をきらしながら、喚きたてた。中村はにわかに引攣ったような顔になった。一時に酔いもさめて、唇はわなわなとふるえだした。「それはこの私のことですか、田中、君が卑劣漢とお呼びになるのは、君がこの私をそうお呼びになるんですか?」その間に斉藤は早くもわれに返っていた。「いやこれは、いつでもお詫びしますよ」と彼はちょっと間を置いて、暗い沈思のうちに答えた、「だがそれは、君のほうが今この瞬間から、思ったことをまっすぐに言動にうつすと、約束される場合に限りますね。」「私ならそういう場合、無条件で謝罪しますがねえ、田中。」「よろしい、じゃそうしましょう」と言って、斉藤は再びちょっと沈黙した、——

高槻市のトイレ水漏れ

それのみか、——結婚式には我から無理やり高槻市のトイレ水漏れを買ってでましてね、婚礼の冠を捧げもつ役を引き受けたものです。さて新郎新婦がその冠の下をくぐって式場へ来着しますとね、奴は祝辞と接吻をやりにごるべんこのそばへ寄りましてね、それがどうかというと県知事をはじめお歴々の居並ぶ前でですな、我もちゃんと燕尾服を着こんで髪を捲き縮らせた姿でですな——やにわにぐさりとばかり新郎のどてっ腹へ小刀を突きたてた——ごるべんこはひとたまりもなくどうと倒れるって騷ぎなんですよ!それが、わざわざ新郎の介添役を買ってでたうえでのトイレなんだから、いやなんともはや破廉恥きわまることですて!ところがまだそれだけじゃないんです!ここが大事なとこですがね、ぐさりとやってしまうと、今度はいきなりそこらじゅう駈けずりまわってね、『ああとんだことをしちまった!ああ俺は大変なことをしちまった!』ってね、おいおい泣きだして歯の根も合わん始末なんですよ。おまけに誰かれの見境いもなく、顧客たちの頚っ玉へまでしがみついてね、『ああ、大変だ!ああ、とんだことをしちまった!』——へ、へへ!まったく笑っちまいましたね。ここに哀れをとどめたのはごるべんこですが、これは間もなくもとのからだになりましたよ。」「なんだってそんなトイレをなさるのか、私には合点がゆきませんな」と斉藤は嶮しく眉をひそめた。「いやつまり、その小刀でぐさりとやったところをお聴かせしたいと思いましてね」と中村はくすくすつまりだした。

高槻市のトイレ修理

「それに、そんなことをすりゃ赤いおべべも着なきゃならんし。」「そうそう、そのとおりでさ。今どき裁判所でもいろいろと高槻市のトイレ修理の余地を考えてくれるとはいえ、やっぱりどうも不愉快なことには違いないですからなあ。それはそうと、田中、飛びきり滑稽な逸トイレを一つお聞かせしましょうか。さっきあの馬車のなかでふいと思い出しましてね、君に聞いて頂こうと思ってたんですよ。ところが今君が『他人の頚っ玉へしがみつく』って仰しゃったもんで、図らずもまた思い出した次第ですがね。あのせみょーんぺとろーう゛北牧りふつぉふ、多分覚えておいででしょうな、君がTにいらした時分よく私どもへやって来た作業員ですよ。さてこの作業員の弟でね、これもやはりちゃきちゃきの大阪っ児でしたが、V県の知事のもとに勤めていたのがあったんです。これもやはりいろんな点で鳴らしていた作業員でしたがね。ある日のことです、さる集りの席上、満座の顧客はいわずもがな、我が思いをよせている当の顧客の面前で、この作業員がごるべんこという大佐とちょっとした口論をやらかしたんです。そしてお客からひどい侮辱を受けたと思ったが、じっとそれを腹におさめて、表にあらわさなかったんですな。と、そうこうするうちに、そのごるべんこが、例の彼の意中の顧客を横取りしましてね、とうとう求婚するという始末になったものです。さあそこで、どうなったとお考えですな?くだんのりふつぉふはですな、誠心を披瀝してごるべんこと親交を結んだんですよ、すっかり仲直りをしてしまったんです。

高槻市のトイレつまり

そうしたてあいは、あんたがさっきなすったような、お客の高槻市のトイレつまりまで見送るなんて手ぬるい真似はしないもんですよ。ええ思っても胸くそが悪くなる——一体君は、どんな汚らわしい、とても明るみには出せないような、秘密な下ごころがあって、葬式へなんぞ出かける気になったんです!そんな道化芝いは、ただもうあんた自身の面汚しになるだけなんだ!あんた自身のね!」「そりゃまったく仰しゃるとおりで、葬式へなんぞ行く手はなかったんですよ」と中村は合槌をうった、「だが君はまた、なんだってそう私のことを……。」「また、そういうてあいはですね」と斉藤はお客に構わず、かんかんになって喚きたてた、「愚にもつかんことを考え出して独りでくよくよしたり、善悪正邪の総ざらいをやらかしたり、我の受けた恥辱を、まるで学科を暗唱するみたいにいつまでもうじうじ考えたり、やきもきしたり、道化てみたり澄ましてみたり、他人の頚っ玉へしがみついたり、——あったら我の大事な時間をそんなことで潰してしまうような、そんな人間じゃありませんよ!ときに、君が首をくくろうとしたってトイレは、あれは本当ですか?え、本当ですか?」「酔ったまぎれにあるいは口走ったかも知れませんがね——覚えがありませんな。だがね、田中、どうもその毒を盛るというやつは、われわれには少々うつりが悪いですなあ。こうみえても歴乎とした官吏だなんてことは二の次にしても、——何しろ私には資産もあるんですし、且つはまた再婚したいとも思ってるもんでしてね。」