排水口水漏れno

「私はね、田中、さがし物があって起きたんですがね……(そして彼は必要欠くべからざるある家庭用品の名を言った)探したけどないもんですから……そっと君の寝床のあたりをさぐって見たいと思いましてね。」「じゃなぜ黙ってたんです……あんなに私がどなったのに!」と斉藤は三十秒ほどじっとお客の気配を窺っていたが、やがてとぎれとぎれの声で尋いた。「びっくりしちまったんですよ。君のどなりようが物凄かったんで……度胆を抜かれちまったんですよ。」「その左手の隅の、戸口の近くにある、小さな戸棚のなかです、臘燭をつけて御覧なさい……」「いや、明りなんかなくても……」と隅のほうへ行きながら、中村は恐縮したような声を出した、——「ねえ、ひとつ堪忍してくださいよ、田中、すっかりどうもお騷がせしてしまって……何しろ一時に酔いが出たもんですから……」しかしお客はもう何も答えなかった。彼は依然として顔を壁へ向けたままだったが、とうとう夜どおしその姿勢で押しとおして、ただの一度もこちらをふり向かなかった。果して彼は、こうして先刻の約束を守って軽蔑の情を示したいと思ったのであろうか?——じつをいうと彼は無我夢中で、我がどうしているかも知らなかったのである。気持ちの錯乱は次第に募って、やがてはほとんど意識の溷濁状態にまで進み、彼は長いあいだ寝つかれなかった。あくる朝、彼が眼をさました時は、もうとっくに九時をまわっていた。まるで脇腹を小突かれでもしたように、やにわにはね起きると、寝床の上に座り直った。