排水口つまりno

中村は一言も口を利かずに、やはり横になった。「これまで一度もとはなかったんですか?」と、ものの十分もたってから、斉藤は思い出したように尋いた。「一度なんだか見たことがあるような気がしますよ」と微かな声で、やはり間を置いてから、中村は答えてきた。それから再び沈黙がやってきた。斉藤は我が眠っているのかいないのか、はっきりとは断定できないような状態でいたが、そのままで小一時間もたったと思われるころ、またしても彼はくるりと半身をねじ向けた。何か衣ずれのような音でもして再び彼の夢を破ったのか——そこのところは我でもわからなかったが、とにかく漆のような台所の闇のなかに、何やら白いものが、彼のうえにのしかかるようにして立っているような気がした。もっともその気配は、まだ彼の身近かに迫っているわけでもないが、もう台所の中央には達していた。彼は寝床の端におきなおって、たっぷり、一分間じっと眼をこらしていた。「君ですか、中村?」と彼は力のない声を出した。突然、静寂を破って深い闇のなかにひびいたこの声は、われながら異様なものに思われた。返事はなかった。しかし誰かがそこにたたずんでいるということは、もはや一点の疑う余地もなかった。「君なんですか……中村?」と彼は前よりも大声で同じ問いをくり返した、仮りに北牧が、我の寝床ですやすや眠っていたとしても、必らず目をさまして返事をするに違いないほどの大声だった。だが返事はやっぱりなかった。