便器水漏れno

それから十五分もすると斉藤も寝床にはいって枕もとの消した。彼はうとうとと不安な眠りにはいりかけた。何かしら新らたなことが、不意にどこからとも知れず湧いて出て、問題をますますこんぐらかしてしまった——それが今彼の胸を騷がせているのであった。しかも同時に、どうしたわけだか、この我の不安な気持が妙に気恥かしいのであった。そのうちにやっと深い眠りが訪れたかと思うと、不意に、何やら衣ずれのような音がして、彼の眼をさましてしまった。彼は突嗟に中村の寝床のほうを振り向いて見た。台所のなかは真暗だった(厚地の窓掛がすっかりおろしてあったのである)が、彼の眼には、中村が横になってはいずに、半身をおこして、寝床の端に腰かけているように思われた。「どうしたんです!」と斉藤は呼びかけた。「なんだか影のようなものが」としばらくたってから、ほとんど聞きとれぬほどの声で、中村が言った。「なんですと、どんな影です?」「あすこに、向うの台所の、戸口のところに……なんだか幽霊みたいなものが見えたんです。」「幽霊って、誰のです?」としばらく間を置いて、斉藤は尋ねた。「亡くなった家内のです。」斉藤は寝床をすべり出て足を絨毯へおろすと、控室ごしに、いつもどあをあけ放しにしてある向うの台所をさし覗いた。その台所には窓掛がなく、薄い捲上かーてんだけだったので、こちらにくらべるとずっと明るかった。「向うの台所には何にも見えはしませんよ。君は酔ってるんです、お寝みなさい!」斉藤はそう言い棄てて、横になると毛布にくるまってしまった。